作品詳細はページ下部参照
個展「日々の光景」
2022年10月30日(日)〜12月25日(日)
Cafe and Galler 鐘や - K gallery
〒690-3401 島根県飯石郡飯南町野萱805
https://kaneya-cafegallery.com
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solo show: daily scenes
Oct. 30 - Dec. 25, 2022
Cafe and Galley KANEYA
805 Nogaya Iinan-cho, Iishi-gun, Shimane-ken 690-3401. Japan.
https://kaneya-cafegallery.com
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<ギャラリーステートメント>
この度《 K gallery 》では、大庭孝文個展「日々の光景」を開催いたします。 
今日のデジタルデバイスの発達により、画像や音楽、その他あらゆる情報の記録は極めて鮮明かつ半永久的に保存・再生することが可能となりました。それは、昨日食べたごはんのおかずさえも正確に思い出せない私たち人間の記憶の曖昧さと比べて、おおよそ対照的であると言えます。
本展でご紹介する大庭孝文(1988〜)は、この「人間の記憶の曖昧さ」に着目して作品制作を続けるアーティストです。時間を追うごとに忘れ、朧げになりゆく人間の記憶の過程を考察し、それを自らの絵画制作のプロセスに置き換えることで、抽象的でありながらも実感を帯びた、これまでにない新たな風景を描き出そうとしています。
大学時代に日本画専攻で美術を学んだ大庭は、日本国内で1300年間受け継がれてきた絵画の材料技法を修得し、手漉き和紙に岩絵具(鉱石を砕いて製造する粉状の絵具)で彩色する伝統的な絵画の制作方法を基本に、アクリル絵具やスチレンペーパーといった現代的な素材を取り入れるなど、作品ごとのイメージに適う表現方法を採用しています。制作の準備段階についても、一枚のスケッチや写真を元に何度も下図を描き直し、修正を重ねながら作品を仕上げるという、日本画では一般的な方法がとられていますが、大庭はその過程の随所にデジタル的な処理を与えていきます。これが日本画?と驚くほど、従来の日本画のイメージとはかけ離れているように思われますが、伝統とは本来、こうした時代ごとの作家の感性による自由な試行錯誤によって少しずつ変容し、多様化しながら受け継がれていくからこそ色褪せず、強い魅力を放ち続けるものでしょう。
かつての遠い記憶は、その確かなかたちを徐々に失いながら、辛く苦い過去の感情をいつしか和らげ、美しい日々の光景として心の中に留まり続けます。曖昧になりゆくそのおぼつかなさは、人が強く前に進むための、機械では到底再現しようのない綿密なプログラムであることに気付かされます。人間がその手で描く風景もまた、そうした無比の可能性を提示し続けるものであると信じています。
K gallery/Art Director
八嶋 洋平 山浦 めぐみ 



<作家ステートメント>
作品は「記憶すること」「忘却すること」という、人間が持っている認知構造について言及しています。人間の記憶は、科学の世界では非常に曖昧なものとして定義されています。自分では事実として脳内に保管していると思っている記憶でも、月日とともに都合の良いように改変や忘却をしたり、別の出来事と混合したりと、無意識下で様々な操作が施されています。このような認知心理学から考える「記憶の過程」を軸に、 現実と記憶との関係性を表現しています。
私の絵画は、表層は単純に見えますが、多層的な工程を経て成り立っています。一枚の写真を基に、ペンによるドローイング、岩絵具を用いたペインティング、画像編集ソフトによる写真加工といった、異なる複数の方法で「描く」と「消す」を繰り返し行い、残った痕跡を合成した物を作品としています。「描く」と「消す」あるいは「描き直す」という作業の反復は、記憶が上書きされ事実から歪曲していく様子と似た性質を持っています。作品のベースには人物や風景が写った普遍的な写真がありますが、最終的に仕上がった作品からは、おそらくそれは想像ができません。記憶はそれほどに様子が変わってしまう物である事を表しています。長いプロセスの中で、一つのイメージに幾度も介入することで別の姿に図像が結ばれていく様子は、私たちが持っている、世界を認識する際のメカニズムを描いているようにも感じています。
近作のシリーズタイトルである《正しい風景》は、その言葉の前に括弧つきで、「自分にとっての」という言葉が入ります。あくまでも作者である私にとっての正しさであり、そうした正しさは人の数だけ存在します。繰り返しになりますが、記憶というのは美化をともないます。捉えた事柄、経験を上書きし、修正し、部分的には削除する。それは事実とは呼べず、一種のフィクションのようなものです。認知心理学では、作り出された架空の記憶を「フォールスメモリー(過誤記憶・虚偽記憶)」という言葉で定義づけています。ありもしない出来事をあたかも事実として無自覚に認識してしまうのです。内的要因、外的要因、様々なケースがあるものの、精神の安定を保つための自己防衛本能の一種として、それらが起こると考えられています。例え変容された記憶であっても、自分にとっては正しさを帯びており、また愛着が生じている思い出でもあるため、一概に悪い物として扱えません。良し悪しの判断ではなく、むしろ私たちが持っているそうした機能を理解する方が、有意義ではないかと思っています。
社会とは個人の集まりです。それぞれの思想が集う事で、社会の「正しい」は形成されています。変容していく、或いは誰かが扇動的に変容させている社会について、私は作品を通して考察を続けています。
大庭 孝文
《正しい風景(急潮流の海峡・7人・卒業旅行)》
2022年
83.9 x 120 cm
岩絵具、プラチナ、アルミニウム、アクリル絵具
膠、合成接着剤、スチレンペーパー、和紙、木製パネル
《正しい風景(裏山、17カ所の鉄塔、2つの調整池)》
2022年
83.9 x 120 cm
岩絵具、プラチナ、アルミニウム、アクリル絵具
膠、合成接着剤、スチレンペーパー、和紙、木製パネル
《正しい風景(水に映る4人・国立公園・ハイキング)》
2022年
83.9 x 120 cm
岩絵具、錫、アルミニウム、アクリル絵具、膠
合成接着剤、スチレンペーパー、和紙、木製パネル
《日々の光景(ニュータウン・公園・プラタナス)》
2022年
83.9 x 120 cm
岩絵具、アルミニウム、アクリル絵具、膠、合成接着剤
スチレンペーパー、和紙、木製パネル
《正しい風景(大堰川緑地公園、牛舎、ろうそくの明かり)》
2022年
31.5 x 45 cm
岩絵具、錫、プラチナ、アルミニウム、アクリル絵具
膠、合成接着剤、スチレンペーパー、和紙、木製パネル
《正しい風景(潮待ち、繁栄、4人の芸妓)》
2022年
31.5 x 45 cm
岩絵具、プラチナ、アルミニウム、アクリル絵具
膠、合成接着剤、スチレンペーパー、和紙、木製パネル
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